紫煙

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紫煙

 煙草の煙が漂う室内。  歳の離れた二人。  二人は教師と生徒。 「先生、煙草やめて下さいよ」  ブレザーの制服に袖を通しながら彼女は言う。 「嫌。ストレスが溜まるんだから」 「じゃあストレスを溜めないようにして下さいよ」  先生は口元を軽く上げると、宙に煙の輪を吐く。 「誰かさんが原因なんですけど?」 「じゃあその誰かさんを改善しなくちゃ」  彼女はそうおどけて肩をすくめる。  日が沈んだばかりの校庭では練習を切り上げる声が上がる。再び彼女は提案した。 「やっぱり煙草はやめた方が良いですよ。恋人出来ませんよ?」 「もう諦めました。誰か生徒でいい子はいないの?」 「生徒前にしてそんな事言いますか?」 「言うの」 「酷いなぁ。でも体に悪いですから代わりにこれでも」  そう言って彼女は制服のポケットから可愛らしい包み紙の飴玉をいくつか取り出して、先生の手に半ば強引に握らせた。 「この歳でこんな可愛い飴玉なんて似合わないでしょ」 「ギャップが合っていいという考え方もありますよ」 「ギャップならもうあると思うけど」  保健室養護教諭の彼女は保健室で煙草をくゆらしている自分を指して言う。 「そうですね……。じゃあ、帰ります」 「明日は教室に行くんだよ?」 「努力します」  建て付けの悪い戸がガタガタ音を立てて閉まる。  彼女は紫の空を見てため息。  彼女は紫の煙を吐きため息。  彼女らは今日も嘘をついた。  教室になど行ってほしくは無いし、行きたくもないのだ。
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