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「あなた!青よ」 「おっ」  信号の変わったのを妻に促されて、春男は慌てて交差点から車を発進させた。 「なに、ぼーっとしてるのよ?」 「うんっ? いや、桜に見とれてたんだ。こっちは早いなって」  道路の両側を飾る桜並木の全部が枝を隠す程に咲き誇っている。 「ほんと。もう満開ね。でも、ぼーっとしてたほんとの理由は違うでしょ? あくびしてたじゃないの」 「んっ? ちょっと眠気が来てね。結構走ったからな。それと、やっぱり春だからかなぁ。ほら、俺の名前が春男だし」 「だから?」 「春眠あかつきを覚えずって言うだろ? だから眠気が来ちゃうんだよ、きっと」 「しょうがないわね、もう。危ないから運転代わるわ。停めて」 「いや、大丈夫だよ。ホテルまで、もうちょっとだし。どおってこと……ふあう」 「ほらーっ、また、あくびしてる。全然、大丈夫じゃない! 危ないから、停めて。あたしがおとなしく言ってる間に停めないと……」 「わ、わかったよ。しようがないなあ」  ワゴン車を路側帯に停めて、二人は席を入れ替わった。
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