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「やっぱりな。だけどさ。俺の名前は、もうちっと考えて欲しかったよ。春に生まれたから春男だなんて。何の思い入れも工夫も感じられないよ。安易過ぎるよ。お手軽なんだよ。名前をお手軽にするから人生がお手軽になっちまうんだよ。まったく」
「あははっ。そうねえ。うぷぷっ」
秋子は可笑しくて堪らないと言うように吹いた。
海沿いの国道に出ると道幅が広くなり視界が開けた。潮の香りがただよって一気に開放感が広がる。
「あれっ? この曲!」
春男がカーラジオのボリュームを上げた。
《俺が二十歳でー
お前が十九》
「夫婦春秋(めおとしゅんじゅう)って歌じゃなかったっけ。村田英雄だろ?」
「あっ、知ってる。もうずいぶん前に死んじゃった歌手でしょ。……で、それがなに?」
「いや、歌手の話じゃなくて、歌のタイトルがさ。俺が春男でお前が秋子。夫婦春秋って俺達の歌みたいなもんかなって」
「あっ、ほんとね。素敵!」
「もう、そろそろホテルが見える筈なんだが……あっ、あれだ!【ホテル・シーズン】結構、でかいぞ。子供達を起こすか?」
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