Chapter 1-「アンタ、馬鹿にしてんの?」

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―6月20日― 「だから、何でシグーに乗らないのよ!」 「言ったろ、あの機体に乗るつもりはねえって」 あたしの剣幕に、カイは煩そうに返事を返す。 ……ああ、急に一人称が変わって混乱してる? そうね、自己紹介しとこうかしら。 あたしの名前はヴァル。 ヴァル・ルキーリ! あたしがザフトに入ったきっかけは、C.E.70.7.24のあの日。 農業用コロニー・ユニウスセブンに撃ち込まれた、たった一発の核ミサイルによって、何の罪も無い243,721人もの尊い命が奪われた、「血のバレンタイン」と呼ばれる惨劇。 あたしの両親の命を奪ったこの事件を、主犯の連合は「ザフトの自作自演」と批判した。 許せなかった。 大好きだったパパとママを奪っておきながら、悪いのはあたし達コーディネイターだと居直るナチュラル共が。 許せなかった。 あたし達が存在する事を認めず、くだらない嫉妬心からあたし達をモノ扱いし、世界を汚す存在として排斥しようとするナチュラル共が。 だから、あたしはザフトに入った。 あたしの手で、ナチュラルを皆殺しにする為に。 あたしの手で、ナチュラル共に同胞達を殺した罪を購わせる為に。 その為に、あたしは死に物狂いでMSの操縦技術を磨いた。 もっと早く、もっと正確に、もっと力強く。 全ては、ナチュラル共を倒す為に。 その努力は報われ、いつしかあたしはザフトの中でも「エース」と呼ばれる存在となっていた。 あたしの乗るシグーがナチュラルを倒す度、同僚達はあたしに喝采と尊敬の眼差しを浴びせてくれる。 そして、戦場が地上に移行するにつれ、あたしの戦場も地上に移っていった。 そこで、あたしは「血のバレンタイン」以来人生二度目の衝撃を味わう事になる。 それが、「無冠のエース」と呼ばれた男・カイ・キーシンとの出会いだった。 「だから、開発当初とは事情が違うの! そりゃあ、テストパイロット中にローストチキンにされかかった恐怖心があるのは分かるけど、もう信頼性だってジンと変わらないんだってば!」 「そんな問題じゃねえんだよ。 俺はあの機体とはフィーリングが合わねえんだ。 何て言うかな、相性が悪いんだよ。 あの機体には命を預けられねえ」
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