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マサムネは、葉の擦れる音で目を覚ました。
(寝てたのか…)
いつ眠りに落ちたかわからない。自分はそこまで疲弊していたのかと苦笑してしまった。
それにしても、戦場で疲れに負けて寝てしまうとは気が弛んでいる証拠だ。
いくら今が一時休戦状態とはいえ、これではいつ首を落とされるかわかったものではない。ましてや相手は、このルスランからロストテクノロジーを大量に奪っていった盗賊、シスターマフィンである。気を抜いたら、一瞬にして首をさらわれてしまう。
想像してみて寒気がした。あの女傑ならばやりかねない。マサムネは気合を入れるように、自分の頬を両手で叩いた。
「……caelis es.」
その時、ふいに声が聞こえた。
女の声だ。
湖面を滑る風のように穏やかな、そして森に注ぐ陽のように暖かな声。自分は無宗教だが、もし神やら天使やらがいるのならば、こんな声だろうと思わされた。
およそ、戦場に似つかわしくないその声に、マサムネの足は声の方向に動き出す。自分でも無意識のうちに、まるで吸い寄せられるかのように足が勝手に進んでいく。この戦場にあって、その声は不思議とマサムネから警戒心を削ぎ落とていく。
なるべく音を立てないようにして近づけば、木々の向こうに人影が見えた。
月明かりに照らされて浮かび上がる横顔に、思わず声を出しそうになって慌ててしまう。
月と同じような色の髪は無造作に跳ねているものの、だらしない雰囲気など微塵もなく、むしろ気品に溢れている。
そして、その髪に似つかわしい端正な横顔は神聖な造り物めいていて、マサムネは思わず息を呑んだ。
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