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彼女は、聖女だ。
まさに今、マサムネが侵略をしている国の主。
混沌とした世界に舞い降りたメシアである。
マサムネは以前一度だけ、戦場で彼女の姿を見かけたことがあった。
アザルト連邦ができて間もない頃。ルスランに侵攻してきた彼らを迎え撃った時、血にまみれた地獄のような戦場で彼女の周りだけ別次元のようだったことを覚えている。
馬に跨がり、真っ直ぐルスランを射る瞳は、マサムネの目から見ても魅力的に映ったものだ。
そして、今また彼女は独特な空気をまとってそこにいる。
目を閉じ、ゆっくりとした呼吸に合わせて音を刻んでいる。
「Pater noster,qui in caeli;」
聞いたことのない言語だ。シズスナなら解るかもしれないが、生憎マサムネには語学にまつわる知識など持ち合わせていない。
しかし、音だけ聞くならば、詞のようである。何を言っているかはわからなかったが、祈りを捧げているように見えた。
「……nostrae.Amen.」
閉ざされていた瞳が開く。
そこにあるのは、珊瑚のような淡く優しい色。しかし、その奥には悲しみが深く根付いている。見ている者の胸を締め付けるような、そんな感情が彼女の中で揺らめいていた。
「こんな時間に何してんだ?」
マサムネは意識せずとも声に出していた。
彼は本来感傷的とは無縁の男であったが、その姿に心を動かされた。見ているといけない方向に走ってしまいそうで、たまらずその空気をぶち壊すかのように言葉を発していた。
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