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リリアーヌが驚いたように顔を上げ、すぐに敵愾心むき出しにマサムネと距離を取る。
先ほどの触れれば壊れてしまいそうな空気は、夢だったのではないかと思われる速さで彼方へ飛んでいってしまった。それが惜しいような気がしている自分がいて、マサムネは思わず笑ってしまう。
「何を笑っているのですか」
「いんや、ちょっとな。さっきのアンタは見蕩れちまうくれぇ別嬪さんだったのに、そうしてるとちゃんとした武辺者だと思ってよ」
「べ……」
リリアーヌの顔がほんのり朱色に染まった。そして、決まり悪そうに視線をそらすものだから、マサムネの笑みが一層深くなった。
「か、からかわないでください!」
「からかってなんかいねーさ」
マサムネに笑われて、からかわれていると思ったリリアーヌが今度は憤怒に顔を赤くする。そのさまは、聖女でも国王でもなく、年相応の女性で。
マサムネが笑うものだから、いつの間にかリリアーヌの警戒心も幾許か薄らいだようだ。
「……で?何してたんだ?」
一頻り笑った後、マサムネは本題を切り出す。
先ほどと同じ質問をすれば、彼女は地面へと視線を落した。
マサムネもつられてそこを見れば、地面が不恰好に盛り上がっている。突き立てられた剣に、嫌でもそこが墓だと悟ってしまった。
「アンタ、戦場中でそんなことしてんのか?」
マサムネの疑問に、リリアーヌが顔を歪めて笑う。
辛そうに。そして、自らを嘲笑っているようにも見える。
「できればいいんですが……。死者の数が多すぎて……」
それはそうだ。連日信じられない程の戦士が帰らぬ人となっている。
マサムネの率いている隊だって、もうどれくらいの人間が命を落したかわからない。それが、武力によるぶつかり合いの成れの果てだとわかっていても、人はどうあったって戦をやめないのだ。国という存在が彼らを縛る限りは。自らの正義を貫こうとする限りは。
「彼は私の目の前で倒れたのです。私をかばうように。だから、こうして弔いを……」
マサムネはそれをどこか冷めた頭で聞いていた。彼女は、一国の王で。支配者なのだ。それを一兵士に弔いを向けるなど、愚かすぎる。
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