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「そいつがたまたまアンタの目の前でやられたから埋めてやったってわけか。お優しいこって」
言葉に含まれた嘲りに気づいたのだろう。リリアーヌが噛み付くようにして、声を荒げる。
「わかっているんです!これが、エゴだってことは!でも、私にはどうしようも……」
涙は出ていないのに、泣いているように見えた。
やはり彼女は愚かだ。そして、同時に優しい。とてもではないが、支配者には向いていない。アキレスとも、またネクロスのネフィリムとも違う。冷徹さの欠片もない。
こんなことに心を痛めていては、きっとこの先アザルト連邦が解体するのも近いのではないかと思わされた。
「彼は目を閉じる間際、私に言いました。この大陸を救ってください、聖女様と」
今は土の中で安らかに眠る者を思い出しているのだろう。悲しみが彼女を覆っている。
「私は聖女だと方々で言われて……。でも、こうして何万、いえ、何十万もの人間が次々と戦場で命を散らしていくんです。私は……!」
リリアーヌの声が震える。そして、何もかも諦めたように、絶望したかのように首を垂れた。
「私は、何も救えない。無力な、ただの人間です……」
リリアーヌの中で激情が渦を巻いている。逃れる術を知らないかのように、悲憤に体を沈めている。
マサムネは、やはり愚かだと思った。
そんな細い体で、世の中の不幸を一身に背負い、生きている若き聖女。
以前見かけた戦で、彼女はまっすぐ前を向いて馬上にいた。その姿は、聖女と呼ばれるにふさわしく、美しく、気高く、孤高で。
だが、今のようにこの言いようのない悲痛さを身の内に抱え込んでいたのかもしれない。
「その無力なただの人間に縋ってる奴ぁ、どうすりゃいいんだ」
マサムネの声が、夜の森に無機質に響く。
リリアーヌが顔を上げて、マサムネを見た。
「アンタがそれを否定しちまったら、“聖女様”を慕ってる奴らはこれから何を信じればいいんだ」
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