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以来、彼を見かけてはいない。
リリアーヌのもとで、いつかと同じように戦場を駆けているのだろう。
そういった聖女に魅了された者達でアザルトは構成されていると聞いた。
彼女がいくら辛くとも、リリアーヌには聖女でいてもらねばあの男も報われないだろう。
だが、それはマサムネのエゴで。彼女には、彼女の悩みがあるのだから、否定してはいけないこともわかっている。
「悪い、言いすぎた」
「いえ。私こそ……。見ず知らずのアナタに、こんな話……。すみませんでした」
お互いの間に気まずい沈黙が流れる。
マサムネがバツが悪そうにリリアーヌから視線を逸らせば、墓に突き立てられた剣が目に留まった。先ほどは、リリアーヌに気を取られてあまり気にしていなかったが、よく見れば剣には見知った紋章が刻まれている。
青と白の盾に剣を糾ったその紋章は、間違いようもなく我がルスランの物だ。
もしかしたら、リリアーヌは敵国の兵士を弔ったのではないだろうか。そんな考えが生まれたが、先ほどの会話を思い出してそれはないと思い直す。
「……アンタ、その兵士の名がわかるか?」
「名ですか?ええ、わかります」
リリアーヌの口から出された名は、マサムネのよく知る名だった。
同時に、あの日頭を下げていた男が記憶の中で鮮やかによみがえる。
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