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彼はずっと頭を下げていた。
マサムネが角を曲がってしまうまで。
だが、角を曲がる瞬間顔を上げて、マサムネの方をまっすぐ見た。
今でも、目に焼きついて離れない。
彼は両の目をマサムネに向け、まるで針金でも入っているかのようにピンと背を伸ばして、口を動かした。
『 』
何と言っているかは聞こえなかった。
お世話になりました、かもしれないし、ありがとうだったかもしれない。
でも、一つ確かなことは、彼はこれからリリアーヌのために命を賭す覚悟を決めたということ。
視線はマサムネを見ているのに、彼はどこか遠くを見据えていた。
いつか見た、戦場でのリリアーヌを彷彿とさせる姿だった。
「ありがとな」
「え?」
突然の礼にリリアーヌが驚いたようにマサムネを見る。
マサムネが剣へ視線をやれば、リリアーヌは得心がいったというように笑んだ。
「彼は、我がアザルトの大切な仲間ですから」
きっとアザルトの兵士は、彼女のこの笑顔のもとに集うのだろう。
マサムネもルスランで将軍なんてやっていなかったら、彼女に魅了された一人になっていたかもしれない。
だが、彼は多くの兵士を束ねてルスランを護る一軍人だ。彼らを放ることはできないし、何より光のように眩いあの王から離れるつもりもない。
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