第一章 深慮逡巡

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  「チキショウ!! いってぇどうなってやがんだ!!?」 あの戦闘機は一体何か? 一瞬見えたあの戦闘機の姿は何だ? F-104みたいな下反角を持った戦闘機だが見たこと無い形だ。あれは間違いなく新型の戦闘機だ。だが、分かるのはそこまで。あの戦闘機の殺人的な機動力は一体何なのか? 人間が本当に乗って操縦しているのかどうか疑わしい位の恐ろしい機動力だ。 とにかく、これから逃げ切らなければならない。一旦降下して、高いところから低いところに落ちる時に発生する運動エネルギーを使い、降下してから操縦捍を引いてズームアップ急上昇。ある程度、高度を取った所でフレア、チャフを発射。同時にスロットルを戻してギリギリまで推力を絞り、排気熱を押さえる。だが、敵は考えられないスナップアップ(急速上昇)でこちらに接近してくる。加速も半端ではない。フレアやチャフを撒いてもそれを完全に無視して追跡している。 「畜生畜生畜生畜生畜生!! 振り切れねぇ!! 畜生がっ!!」 もうでたらめだった。人間じゃなければ出来ないような認識能力があっても、人間が乗るような機動力じゃない、空飛ぶ円盤のような訳の分からない機動力を持ったあの戦闘機に俺は完全に翻弄されていた。 ──マズイ………このままだと、やられちまう……… この瞬間、俺は撃墜されると感じ取った。あの驚異的な機動力に敵わないのは火を見るより明らかだ。あの驚異的な機動力に付いていく事も、振り切る事も限界。体力的にもう限界なのだ。 「くっ………ここまでかよ………」 そして覚悟した。自分が今、死ぬということを。自分がこの世から消える事を。そして、俺が守るべきだった女の子を守れず、生きて帰る事が出来なくなる事を。それらを覚悟した。 その時、走馬灯のように脳裏に彼女の後ろ姿が浮かんだ。彼女は俺の方に振り返り、俺に向かって優しく微笑んだ。 ── 嗚呼、美乃里…… 彼女を求めるように、風防に手を当てた。その先には、彼女はいない。その代わり、あの謎の戦闘機がいる。そして、俺は───  
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