第一章 深慮逡巡

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  ───── ───── 左手に白く化粧した富士山がある。そして何処か朧な青空。青空とは違う青空が広がる季節。時は正月ボケが完全にすっ飛び、春を目の前にした頃。世間はバレンタインデーというお菓子メーカーのチョコ売り上げ合戦恋の陣で盛り上がり、全国の女性達は男性にどんなチョコを上げようか悩み、又は渡そうか渡さないのか恥ずかしくて悩んでしまう時期。そんな楽しいことと切ないことが起きる2月14日。その日、その風景、その空に似つかわしくない物が俺の周りを囲んでいる。 慌ただしく飛び交う無線、鳴り響く計器音、轟く荒鷲の吐息。更に周りには航空自衛隊の戦闘機「F-15FJ」「F-15J」、アメリカ空軍の戦闘機「F-15C」「F-22A」、アメリカ海兵隊の戦闘機「F/A-18C」が何十機大群を作って東に向かっている。そしてその中に俺が搭乗する、空色に染まった最新鋭実験戦闘機「XF-15JⅡ イーグルⅡ」がいる。 まず、普段、普通はこんな事は無い。あるのは普段、普通ではないという事だけ。そう、今は普段、普通の事態ではない。俗に言う緊急事態だ。 緊急事態の内容は「首都東京が謎の航空勢力に襲撃を受けている」との事。 初めは冗談か何かと思った。だが、それは嘘でも夢でもなかった。テレビの映像が、ミサイルの爆発を捉えていた。見慣れた東京の町が火の海に飲み込まれようとしていたのだ。これを見た時、俺達は今までにない危機感を感じた。 いざ空に上がり、無線のチャンネルを変えれば、AWACS(空中管制機)の声が入ってくる。 たどたどしい声、舌の使い方が上手くない若い女性の声がレシーバーを打った。 『ジャッジ・アイより、全機! 状況、日本国首都東京は現在、謎の敵性勢力の攻撃を受けています! 数は不明! FI(要撃機、又は迎撃機)は百里204、305(百里基地の204飛行隊と305飛行隊。2014年現在204飛行隊は那覇基地)、ユナイテッド・ネイビー(アメリカ海軍航空隊)が上がっています! 防空部隊の戦力は70%に低下、援護要請を受けています! これより当空域は「ジャッジアイ」が担当・指揮します! 私はコールサイン、ロッキー。エクザムの担当をします!』 UHF帯の軍用通信を通じ、スピーカーが震える。ロッキーとは男のようなTACネーム(あだ名)だと思った。それより雑音混じり、酷い音飛びだ。ECM(電子妨害)か?  
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