第一章 深慮逡巡

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  燃料ポンプ計の指針がマックスを示した。心臓の心拍数が上がるように、エンジンの回転数が上がり、燃料の供給量が増えたからだ。 逃げている間にもミサイルが接近する。サーマルサーチャ、赤外線探知のミサイルだ。ローリングしながらフレアを撒き散らす。囮の火球が花火のように現れ、燃え上がる。フレア投下後、パワーダイブ。遥か下の東京湾へと飛び込む。しかしミサイルはフレアを無視し、誤爆せずに来た。 「チッ!!」 舌打ちした。フレアに対して何故ミサイルが引っ掛からなかったのか、という怒りをぶつけた。しかし、そう怒っても時はゲームのポーズのように待ってはくれない。他にミサイルをかわす方法を考える。   ミサイルアラートと時間、迫り来るミサイルが俺の冷静さと思考能力を奪っていく。俺は焦った。 どうする? どうする? どうする? どうやってあれをかわす? どうやってミサイルを避ける? どうやったらミサイルはかわせられる? いろいろ考えるが、案はアクション映画のように、何か都合よく道具が転がっている訳ではない。もう時間がない。 「南無三法!!」 俺は無意識に操縦桿を強く握り直した。そしてさっきのバレルロールのオーバーシュートを思い出す。直ぐにフレアを発射し、スピードブレーキとスロットルを下げて推力を絞って減速、そしてバレルロールを掛ける。 「いっ!!? いぃぃぃぃぃぃぃ!!」 ドンッ!! と自分の身体に後ろからのマイナスGと上からのプラスGが働き、あらゆる力のベクトルが身体を出鱈目に突き刺していく。 「ミサイルは!!?」 俺はミサイルがどうなったのか、上を見る。正確には自分はこの地球の世界から見てひっくり返った状態、背面飛行姿勢になっているから下を見ている事になる。ミサイルは遥か下、目測で500メートル以上下を通過し、ギリギリのところでフレアを誤認してフレアの中に突っ込んでいた。ミサイルは誤爆、自爆する。今の行動がなければ、俺はあのミサイルの餌食になっていた。 「危ねぇ………今のはヒヤッとしたぜ………」 俺はふうっと息をついた。しかし、俺には一息もつける時間は無かった。再びミサイルアラート。ミサイルアラートのオンパレードが続いた。後方警戒装置が後方注意と俺に警告する。 「くそっ!!」 俺は直ぐに操縦捍を引き、背面飛行姿勢か、垂直降下を始めた。  
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