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「そうか・・・」
五郎には掛ける言葉がもうなかった。見つけられずにいた。
そして五郎も自分の娘の事を少しだけ語った。
「俺にも娘はいるが、生まれた時から元気な子だ。元気すぎて困っているくらいだよ」
男は俯いたまま黙って五郎の話を聞いている。
五郎は続けた。
「しかしそんな娘が突然重たい病気を患ってしまったら、俺も酷く落ち込むだろうな」
「おまけに会社が倒産して、終いに離婚と続いたら、俺も同じ事をやっていたかもしれない」
男は五郎の言葉にこう返した
「はっ、冗談いうなよ。誰にも俺の気持ちなんてわかりはしないさ」
「あぁ、わからないさ」
酷くあっさりと言葉を返す五郎。しかし続けて
「それでも、わからないなりに俺はお前の事を理解しようと思う。しているんだ。同じように娘を持つ中年の男がこんな状況を生んでしまって悩んでいるんだ」
そんな言葉をかけられた男は鼻をすすっておかしそうに言った。
「不思議な縁だぜホント、押しかけて入った家にこんな中年がいたんだからな。」
「あぁ、俺も時季外れの黒いサンタかと思ったよ。プレゼントの2千万は忘れてきたみたいだけどな。」
そこで二人はまた笑った。
外にいる警察官達は人質と犯人が笑い合っている声を聞いて果たして何を思っているのであろうか。
二人の会話が落ち着き、時計の針は刻一刻と針を進めていた。
そして台の上の二つのそれはすっかりとのびきっていた。
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