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決戦前夜
キッチンから聞こえるやかんの吹きこぼれる音。
五郎は慣れた手付きで二つのインスタントラーメンにやかんからお湯を注ぐ。
蓋の上にリモコンを置いて出来上がるのを待っている間、五郎は再度男に聞いてみた。
「なぁ、娘さんの容態はそんな大金がいる程深刻なのか?」
すると男は俯いて黙っていたが、ゆっくりと重たい口を開け語り出した。
「生まれた時から身体の弱い子だったんだよ」
五郎は男の方を見つめている。
「そんな娘だったから俺はただがむしゃらに仕事をした。全ては娘の為に。でもな、それでよかった・・・それがよかったんだ」
「俺の流す汗の一滴が娘の為になるなら幾らでも流してやるって・・・でもな」
そこで少し間を置いて男はまた口を開いた。
「離婚したんだよ、6年前に。仕事ばっかりやって、確かにお金は必要だが、妻や娘と接する時間も全て仕事にあてていたからな・・・」
「家庭を顧みらずってやつか・・・。だがそれは娘さんの為にやっていた事だろう?それだったら・・・」
すると男は右手を五郎の顔の前に突き出してもういいという素振りを見せた。
それを受けた五郎も話すのをやめた。
「理屈じゃどうにもならなかったんだ。結局俺には仕事と家庭を両立出来なかっただけ、それだけの事だ。」
「そして、銀行を襲ったのか・・・」
男は鼻で笑ってまた口を開いた。
「会社も倒産して、今の俺に出来たのはこんな事だけだ。当然やっちゃいけないとはわかっていた。でもな、どうにもならなかったんだよ。気がついたらもう襲ってた後だったんだ・・・」
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