僕、スズキ。

2/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
鈴木、と書かれた郵便受け。 見慣れたガラス窓。 大きく203とシールが貼ってある。 南向き?トイレ風呂別?壁紙張り替え済み?鍵交換済み? どれもこれも、最大級に膨らませた虚言ばかり…… 南を向いているのはこの汚らしい、汚物のような色の玄関扉のみ。 トイレと風呂の間には、なんの塗装もないベニヤ板。 壁紙だって、前使った壁紙の裏面じゃねえか。 終いに鍵は、南京錠。 訴えたら絶対に勝つ。 僕は舌打ちをし、郵便受けに入っていた郵便物を開いた。 【bocomo料金督促状】 「やべー。携帯使えなくなったら仕事入ってこねーじゃん」 滞納金約四万円。 ついでに家賃は二カ月滞納で、こちらも約四万円。 ついでのついでに、光熱費は三カ月滞納で約五万円。 「さてさて~。僕の首はどこに吊そうかな~」 六畳一間の、日の当たらない部屋を見渡す。 吊すとこがない。 「あれしかないなあ」 唯一目に入った玄関扉のドアノブが、異常にリアルで、死ぬ気も萎えた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!