1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
鈴木、と書かれた郵便受け。
見慣れたガラス窓。
大きく203とシールが貼ってある。
南向き?トイレ風呂別?壁紙張り替え済み?鍵交換済み?
どれもこれも、最大級に膨らませた虚言ばかり……
南を向いているのはこの汚らしい、汚物のような色の玄関扉のみ。
トイレと風呂の間には、なんの塗装もないベニヤ板。
壁紙だって、前使った壁紙の裏面じゃねえか。
終いに鍵は、南京錠。
訴えたら絶対に勝つ。
僕は舌打ちをし、郵便受けに入っていた郵便物を開いた。
【bocomo料金督促状】
「やべー。携帯使えなくなったら仕事入ってこねーじゃん」
滞納金約四万円。
ついでに家賃は二カ月滞納で、こちらも約四万円。
ついでのついでに、光熱費は三カ月滞納で約五万円。
「さてさて~。僕の首はどこに吊そうかな~」
六畳一間の、日の当たらない部屋を見渡す。
吊すとこがない。
「あれしかないなあ」
唯一目に入った玄関扉のドアノブが、異常にリアルで、死ぬ気も萎えた。
最初のコメントを投稿しよう!