256人が本棚に入れています
本棚に追加
ただ考えなしに扉を開いた、という訳でもない。直感でだが、敵意がない事を感じ取ったからである。
「すまない」
「うん。ま、汚いけどその辺座って」
「ああ」
客はローブを取ると、金糸の刺繍が所々に入った、素人目にも判り易い高貴な衣裳に身を包んでいた。
オーサーとは対象的な銀の髪を少しの前髪を残して後ろに流しており、長めの襟足はちょろっと紐で結わえている。
しかし怪しい者ではないと言っていた客は、この大陸ウェリスに居てはいけない、人間の男性だった。まず間違いなく、テリーの言っていた密入国者だろう。
それは直ぐに解ったのだが、オーサーのしばらく眠っていた好奇心が、何故かむくむくと起き上がってしまっていたのである。
「君一人……じゃないか。お供は?」
「外で待たせている」
「で、君は誰? 何の用? 当然俺の事、解って来てるんだよね?」
矢継ぎ早なオーサーの質問に多少驚いた様だったが、男性は真っ直ぐオーサーを見つめ、真摯に応えた。
「私の名はユージーン・ディートバッハ・ディル・バール。貴殿……大魔法使いオーサー・イクシウス殿をずっと探していた。ようやく、ようやく会えた……!」
最初のコメントを投稿しよう!