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男性、改めユージーンは、一度感慨深げに言葉を切った。
オーサーは、今までにも何度か経験したこのパターンに眉間の皺を深める。
「あのね、先に言っとくけど、俺はもう戦には――」
「貴殿に、妹の教師になっていただきたい」
オーサーは、何を言われているのか一瞬思考が追い付かなかった。
「は? 教師?」
「是非!」
教師、は予想していなかった。
今まで人間からの頼み事など、戦関係以外になかったからである。またか、と、そう一瞬思わされていたのも、ユージーンの名を聞いた時点で彼の素性が明らかになっていた為だ。
「え、名前……。ディル・バールってことは君、バールの王様なんでしょ?」
バールというのは、ここから海を渡った遥かかなたの大陸の、大国の名だ。
一国の王が直々に、危険を冒しこんな所まで来ての頼みが教師はないだろう、何か裏があるのではないか、と、やはりオーサーはユージーンを疑う。
勿論それを口に出してはいないが、ユージーンにはしっかり伝わってしまった様だ。
「いかにも。だがそんな事はこの際どうでも良いのだ。……恐らく、貴殿でなければもはや務まるまい、話を聞いてくれないか」
机の上で両拳を握り締め、ユージーンは正面に腰掛けているオーサーにギリギリまで顔を寄せて来る。
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