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「わ、解ったよ」
ユージーンに脅すつもりなどないのだろうが、結果的に脅されたオーサーは両手を挙げて降参降参、とアピールする。
するとユージーンは本来の定位置に戻り、語り出した。
「今から八年程前の話だ。貴殿に付いて欲しい我が妹、リンドには婚約者が居た。しかし大きな事故があってな、その婚約者を含む多くの侍女や兵士が死んだ」
「事故?」
オーサーは特に深い意味なくそこに突っ込んだのだが、ユージーンは辛そうに眉を寄せる。
「……ぼかすのはやめよう、その事故、が問題なのだからな」
一度肩も使って大きく溜め息を付くと、覚悟を決めた様だ。
「婚約者――ルカ・ワイズメルは、バール貴族の中でも三指に入るであろう有力者だった。奴は父上の推薦で決まった婚約者、言ってしまえば政略結婚という物なのだが、それは王族の責務だからな。仕方のない事なのだと、悲嘆にくれる妹を必死に励ました物だった」
「そいつ、あんまりいい男じゃなかったんだね」
「えっ……いや、まぁ……。故人を悪く言うのもどうかと思うが、確かに、外見、内面共に正直良い所が見付からない。父上もワイズメルの持つ力ばかりを見ていたからな」
「ふーん。で?」
「で……」
覚悟は決めていた筈だが、やはりユージーンは言い難そうに言いよどむ。
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