飛翔

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翌日、私は佳那と電車に乗り 激励会会場に来ていた。 会場の扉を少し開けて、 中の様子を伺い見ると、 会はすでに始まっていた。 中に入り、私達は静かに扉を閉め、 入り口の脇に立った。 ステージでは丁度、東部支部長らしき人の挨拶が終わった所だった。 続いて選抜メンバーが呼ばれ 雄介先輩を先頭に、壇上に上がる所だ。 雄介先輩がステージへの階段を上りきった所で、会場の最後方にいた私達に気付き、軽く微笑んでくれた。 その瞳は、私と佳那のツーショットを 喜んでくれている。 そして雄介先輩の視線の先を追う様に 振り返った巧が私達に気付いた。 巧の足が止まり、前を行く人と少し距離が空いた。 私と佳那は顔を見合わせ、控えめ気味に、二人揃って腰の辺りでピースした。 巧は表情を変える事なく、 止まった足をやや早足にして 前の人との距離を縮めた。 ------佳那を抱きしめた。 ------これ以上は言えない。 ------言いたくない。 巧は、私と佳那のツーショットピースに 戸惑ったのかもしれない。 でももう、大丈夫だよ。 今日来たのは、 それも伝えたかったからだから。 壇上に整列する巧達に次いで、 ステージ脇に置かれたマイクの前に 雄介先輩のお父さん、藤咲雄二が立った。 藤咲雄二は、簡単な自己紹介や経歴などを短く語った後、 『私は今、スペインで活動していますが 私のサッカー人生に賭ける最終目的は、 日本サッカーの発展です。 ここにいる選手達には、 その期待に応えて貰う。 君達に、限界は無い。 あるとすれば、 自分自身でそれを決めた時だ。』 藤咲雄二の迫力ある言い回しに、 会場が静まり返る。 静けさの中で私は感じた。 藤咲雄二は雄介先輩を切り捨てた。 でも、それを切り捨てられたと諦めるか どうかは、自分自身なのではないかと言う事。 少年団時代、巧にポジションを取られた 上級生が、サッカーを辞めてしまった事があった。 自分で自分の限界を決めたのだ。 でも雄介先輩は、 自分で自分の限界を決めたりはしなかった。 雄介先輩は明日、必ずそれを証明する。 そして藤咲雄二は、それを期待している。
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