飛翔

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飛翔

小学校の卒業式。 巧は何人かの下級生に囲まれていた。 『握手してください。』 その光景は、ちょっとしたアイドルの 握手会の様だった。 巧の活躍ぶりは、ちまたで話題になる程で、校内で巧の事を知らない人はいないのではないかと思わせた。 携帯を持っている子は、 ツーショットの写メをねだっていた。 そんな巧を、私は不思議な気持ちで見ていた。 だって私にとって、巧は巧だったから。 『香波っ!』 私の待つ高台公園に、巧が息を切らせて走って来た。 『遅っ!』 『これでも急いだんだぞ。』 確かにそんな感じだったけど、 「待ってて。」って行ったのは巧の方だから、ちょっと意地悪言ってみた。 『四月からは中学生だよ。また一緒だね。』 巧にはサッカーの名門校に行く話しもあったけど、 鳴海中に少年団上がりの上級生が多く 意外にサッカーの強豪校だった事から 鳴海中への進学となった。 『もう少し一緒にいてやる。』 『えっ?』 『だから、もう少しだけ一緒にいてやる。 もう少しだけだからな。』 何!? その、俺様的言い方! 『だったら私もいてやるよ。』 巧の言葉を受けて、私も俺様的口調で返す。 『じぁあ中学生になったら……』 『なったら?』 『入学式の時言うよ。』 ------もう少しだけだからな。 巧はこの時すでに 世界を見つめていたんだね。
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