1,病室の天使

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すると桜璃は笑いながら続けた。 「嘘じゃないよ?本当に思ったんだから仕方ないって。羽留奈は、なんか天使様って感じがする。」 はははっと二人して笑う。 廊下に明るい笑い声が響いた。此処の廊下は、あまり誰も通らない区域なので人っ子一人いないが、それでもその区域だけは明るく見えた。そのくらい二人は楽しそうに笑っていたのだ。 思えばずっと立ったまま話していたのにも関わらず、二人はまったく疲労を感じていなかった。 ――楽しかったから。 温かい気持ち。 嬉しい気持ち。 楽しい気持ち。 はしゃぐ心。 落ち着かない心。 全部この瞬間、いっぺんに味わった彼女はこれが、この時が夢ではないかとさえ思えてきた。 (でも、夢じゃないといいな。) 窓の外を見れば時は夕暮れ。 いつのまにこんなに時が過ぎていたのだろうか。思えばおやつの時間も忘れて立っていた。 「桜璃くん、ありがとう。とっても楽しかった。こんなに楽しかったのは、生まれて初めてかもしれない。」 素直に御礼の言葉を述べた羽留奈は、ぺこりと一礼をする。 と、桜璃はそれに一瞬目を丸くしたがまた笑顔に戻って… 「うん、こちらこそありがとう。僕も楽しかった。羽留奈は何号室?また会いにくるよ。」 その言葉を聞いた瞬間また羽留奈は急激に嬉しくなった。 「本当!?嬉しい。また桜璃くんと話せるなんて…。私は、C病棟の、504号室だよ。ありがとう桜璃くん。じゃあ、またね。」 ――また会える。また話せる。 そのことが何より羽留奈の心に嬉しさを生んだ。もう上がったテンションが今夜まで下がりきらないくらい、嬉しかった。 「じゃあね羽留奈。」 御互いに手を振って別れる。 何年ぶりだろうか、この遊びがえりの寂しさを感じたのは。 いつぶりだろうか、このまた会える喜びを噛みしめたのは。 はやる想いでその場を去ろうとする。スキップでもしてみようか、そう思った刹那―――…。 胸の辺りに激痛が奔った。 凄まじいほどの痛み。 呼吸すら困難なほどの苦しみがこみ上げてくる。 「がはっ…ぐっ…あ…うっ…。」 ばたっ――。 その場に倒れこむ。 視界がぼんやりして見えない。何も。誰かの声が遠ざかりつつ聞こえる。 痛い、苦しい…。抑えられない衝動。 ――お願い、助けて。 手を伸ばした先に重なった温もり。それは一体、誰のものだったのか、意識を手放した彼女にはわからなかった。
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