ウソ

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夜の闇を背景に賑わう繁華街は色とりどりのネオンで妖異に輝いていた。 昼間とはうって変わり異様な変化を遂げる人間は騒ぎ狂いバカでかい声をあげて叫んでいる。 すれ違う者が時折僕の肩を弾く。ちらりと窺うがあるのは小さくなっていく背中であった。 冷たく乾いた風が僕たちを横切っていく。 雪がうっすらと積りアスファルトの通りは歩行者の足跡で奇妙な模様が作り出されていた。ぱらぱらと不揃いな雪がゆっくりと降下し地面に着地する。その瞬間あたかも何も存在しなかったとばかりにそれは消えてなくなる。それでおしまいだ。地上数万メートルから彼らは生まれ今、次から次へと終焉を迎える。それまでの過程で何かを手に入れることが出来たのだろうか。ただ落ちていき静かに消えていく 「おにいちゃん?」 透き通ったソプラノが僕の鼓膜を震わした。 見ると隣を歩く彼女は心配そうに僕を覗きこんでいた。 「ん?」 笑顔で聞くと彼女は僕から顔を背けて言った。 「なんか…いまにも車道に飛び込んじゃいそうな感じだったから…」 きょうびの若者は平然と突拍子もないことを言う。僕は彼女の頭に手をのせて笑顔で言った。 「そんなことないよ」 それでも納得出来ない様で上目遣いで僕を窺ってくる。よしよしと頭を撫でてあげた。彼女は小さく嫌がる素振りを見せたが撫で続けてあげると嬉しそうに微笑んだ。 「…あ、そういえば今日お母さんどうするのかな?」 突然そんなことを言う。僕は暗くなった空を見上げた。 「んー、さあ?」 「ご飯お母さんの分買い忘れちゃったね」 「んーそうだね」 寂寥の夜空に点々とした星は不自然さを放っていた。いつからだろうか、彼女が隣にいないことに気付いた。振り向くと50メートル程後ろに彼女がいるのを見つけ僕は手を振った。彼女はただ呆然と真っ直ぐ僕を見つめていた。回れ右をして彼女の元へ向かう。 「どうした?」 出来る限りの心配してる顔をして言った。 返答はなかった。まるで電池の切れた玩具。彼女は動きもしない。 「リュイ」 夜はまだまだ明けそうにない。月は白く僕は寒さに身震いした。いや、違うか。 「リュイ」 顔の付近で手を振ってみる。 「リュイ」 僕は彼女を背負って急ぎ足で帰宅した。
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