プロローグ

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  雪が降っていた。 ひらひらと舞い落ちるそれらを見、昔 ハドソン 川で見た桜の花びらを重ね合わせた フォレックス・ジェファーソン は、ふとその儚さに眼がいった。 地についた瞬間、そこには最初から何も無かったかのように消え行く儚い結晶達は、“これまで”流されてきた空虚で悲しい血と同じなのかもしれない。 そう考え、“これから”は違う。と口内に呟いた フォレックス は、おもむろに時計を見た。 現在、12/24 午前 10:23 ……… デジタル の無機質な文面がユラリと揺れた。 今日、時代は、世界は変わる。 人類の宿願たる統一政権の樹立と共に、世界は恒久平和を勝ち取り――― 前方に、気高くそびえる建造物が見えた。 その両脇、城を護る警衛もかくやと思わせる“まがまがしさ”を持ちながら、人型であるが故の“生々しさ”も持ち得ていたそれらは、後方に建つ巨大な建造物の 1/3 にも満たない大きさでありながら充分過ぎる程の威厳も兼ね備えていた。 機動兵器、《 デウス・エクス・マーキナー 》。 “機械仕掛けの神”達はただ整然と直立したまま、主の帰りを待っている。 フォレックス は常々、この兵器と新政府の間にある“矛盾”について想い悩んでいた。     統一政権の名の許に、全ての戦争行為の根絶を掲げる政府。 軍の再編計画に乗じて、反政府勢力を一掃しようと画策する軍内部。 それらに対抗し、軍備を増強するであろう反政府 ゲリラ。 戦争を終わらせたいのに。 終わらせようとすると、また戦争が起きる。 生きる為に対抗する。 そうしてまた戦争が起きる。 権力や圧力をふりかざす恐怖政治の時代は、とうの昔に終わりを告げている。 “対話”や“協調”無くして、何がこの世界の怒りを静められようか。 溜め息しか出なくなった我が身が冷え冷えと冷たくなって行くのを感じながら、フォレックス は車窓から空を仰いだ。 鼠色の空は、今だ結論を出せずにいる自身を嘲笑しているようにも、自身の憂いを引き写して沈んでいるようにも見えた。  
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