其の壱“卯月”

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夕食は家族でそろって食べたいと、つくづくオレは思っていた。 しかし、どうだろう。 ウチには、十二人の家族がいる。 しかし、今は一人、『長月』が独り立ちして県外で住んでいる。 だから、実質十一人が暮らしているわけだ。 しかし、今、我が家の食卓には八人しかいない。 オレに、如月、卯月、皐月、水無月、葉月、文月、師走しかいなかった。 さっき出てきた『葉月』というのはオレの妹だ。 文月や師走と同じ学校に通っていて小学三年生だ。 つまり文月の姉さんで師走の妹というわけだ。 「きさ姉~、弥生兄は~?」 食卓に並んだそうめんを箸でつかみながら、葉月が如月に尋ねた。 あぁ、今葉月が言った『弥生』というのは、この町の高級料亭で板前をやっているオレの弟だ。 しかし、今弥生はその仕事場から戻ってきていなかった。 「弥生は……今日、遅いって言ってたわね…」 「……如月、いつもいつも聞いてることなんだが……神無月と霜月は……」 「神ちゃんは、いつも通り部屋に居ますけど…。 霜月は………皐月」 如月はふと皐月を見た。 皐月はわかっていると言わんばかりに立ち上がり、部屋を出ていった。 「あっ……」 隣で我が弟の声が聞こえ、振り向くと、師走がめんつゆを服にこぼしていた。 「あーあー、師走、大丈夫か?待ってろ、今新しい服持ってきてやっから」
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