其の壱“卯月”

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「ふぅ~!相変わらず優しい兄貴だこと!」 オレが部屋を出ると、部屋から葉月と卯月の甲高い声が聞こえた。 おそらく、部屋で師走は渋い顔をしているであろう。 「なんだよ、アイツら……?」 いつものコトなんだが、やはりあの二人に関してオレは疑問符を浮かべる。 葉月はいつもハイテンションで場を盛り上げてくれるが、やはり、小学生三年生。 デリカシーのない発言が目立つ。 『幼い頃に身につけたマナーは一生モノ』という言葉を聞くことがある。 まぁ、それは確かだと思う。 オレ自身幼少時には町中走り回っていて、周りのことなんかお構い無しに暮らしていて、マナーの『マ』の字も知らなかった。 やはり、小さい頃からしっかり周りの大人の言うコトを聞いておくべきだったとつくづく思う。 もちろん。 イレギュラーというものはある。 それは――――卯月だ。 口が悪い。 暴力的。 反抗期。 その他にも挙げようとすればいくらでも湧いてきそうなモノだ。 一体どこで間違えたんだろう。 オレがまだ大学生だったころは笑顔のよく似合うかわいい幼稚園児だったのに。 今となっては当時の面影もなく、笑えばどこか影があるようにも、何か企んでいるようにしか見えない。 今から何とかしようにも、話もまともにできないようなヤツ相手をどこまで矯正できるのだろうか。 とりあえず、できる所までやってみよう。明日から。 などと、師走の服を出していてオレは思っていた。 もう一度部屋に戻ると一人、人数が増えていた。
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