カモミール・ティーの午後

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季節は6月。日本では梅雨真っ只中のはずの時期。 その日は珍しく晴天だった。 私の通う学校の裏庭では、カモミールが見頃を迎えていた。 誰が植えたのかは分からない。 学校の環境整備委員かも知れないし、用務員さんかも知れない。 時間は昼休みだった。 いつものように、お弁当とお気に入りのハーブティーが入った水筒を持って、私は裏庭に向かった。 裏庭にある、もうすっかり古ぼけている青いペンキの塗られたベンチに腰掛ける。 裏庭では、咲いたカモミールの爽やかな甘い香りでいっぱいだった。 その香りに包まれながら、お弁当を広げる。 「珍しい、今日は1人で弁当か?玲子」 ふいに聞こえた声に、私はすぐに反応して、その声の方向に首を向けた。 立っていたのは、同級生で腐れ縁の竹中亮(たけなかりょう)だった。 私は小林玲子(こばやしれいこ)。市立光中学校の3年生。 いわゆる受験生である。 「亮……何か用事?」 「いや、用事は無いが…隣良いか?」 「……どうぞ」 私が答えるやいなや、亮はどかっと隣に腰掛けて来た。 片手には弁当が握られている。どうやらココで食べる気らしい。 箸を持ったままお弁当には手を付けていない私を尻目に、彼も自分のそれを広げて、「いただきまーす」なんて言ってガツガツ弁当をかきこみ始めた。
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