ケース その1

13/13
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
(そっか……私、家族ともお別れなんだ…) 父、母、兄との夕食時、ふとそれに気付いた。 私は明日、清海になっているのだから、坂口家には娘がいない、って事になる。お兄ちゃんは一人っ子って事になる。 普段と変わらない食事、そして団欒の中で、私が明日にはここにいない事を知って、不意に悲しくなった。 (なんで家族に相談しなかったんだろう……) カノンちゃんと出会う前に、時間はあったはず。ただ、私はいじめられるのは初めてで、家族にそれを話すのが怖かったのかもしれない…。 「どうしたの? 真実」 「えっ?」 母が私の顔を不安げに覗き込んできた。その問いに、父も兄も私に注目する。 「ううん。なんでもないよ?」 どうやら、顔に出ていたようだ。私が悩んでいたのを。 ***** 小学生になって、初めて友達が出来た。中学生になって、そのやり方や楽しみ方を覚えたから、ますます友達が増えた。 私は家族に友人の話をよくする。だれだれちゃんがこんなだとか、だれだれくんはこんな事したとか。 だから、高校生になって、悪い事してないのに、いじめられているだなんて言えないよ。 家族は、特にお母さんは、私の楽しい話しか知らないから。 「お母さん」 「?」 寝る前に、キッチンで夕飯時のお皿洗いをする母の元に来た。 育ててくれてありがとう、って。普通に言えた。明日、私はここにはいないから。 「どうしたのよ急に」 そんな私に、母は嬉しそうな、でも戸惑いも見せてくれた。 「急に言いたくなったの」 私はそう理由を言った。母は、そう、と微笑んでくれた。 おやすみなさい、と言えば、母も言葉を返してくれた。 清海になった後も、どこかで会えたらいいなぁ……そんな願いを胸に秘める。明日から新しい自分になるのに、今夜はベッドに入ってすぐに眠れた。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!