ケース その1 実行

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朝、久しぶりに聞いた目覚まし時計のデジタル音で目覚めた。私はこんな時計の音は知らないのだが…。 (ああ…そっか) ゆっくり目を開ければ、見た事のない天井がある。頭上から鳴る電子音に向かって手を伸ばし、私は目覚まし時計のスイッチを切った。 そして身体をゆっくり起こし、部屋を見回した。 勉強机、本棚、クローゼット、カーテンで閉じられたら窓。ここはやっぱり私の知らない、だけど知っている部屋だった。 (清海の部屋、ね) ベッドから出て、鏡か何かがないか探そうとした。机の横にかけてある通学鞄の中にあるらしい。 何故、知らないものを私は知っているのだろうか。これがカノンちゃんの言っていた転生後のサポート、ってやつなのだろうか。 確かにあった。そして、ふたを開いて鏡を私の顔に映す。 だが、私の顔ではなかった。 (すごい…嘘でしょう…?) 今更再認識し、そして驚く。わたしは清海ではないのに、鏡に映る顔は清海の顔なのだ。つまり、私は阪口真実でありながら、身体は西藤清海だって事なんだ。 (これが、生まれ変わる、って事か) まだまだ実感が出来ない…今後の生活に慣れれば、私は自分を清海だと自覚出来るかも。 (それじゃあ…学校行く準備しようかな) ***** 今日必要な教材、定期券、体操服、今日何が必要なのかは脳内にインプットされていた。知らない事なのに。 そして、壁にハンガーでかけてある制服に着替える。全身を映す鏡は、クローゼットのドアを開けた内側にあるらしい。 早速身だしなみをチェック。 (流石は清海………) ストレートな長い黒髪は清純さが表れている。同級生達と比べて、やはり顔は大人びている。背も高く、スタイルもいい、モデルみたいだ。 一時期私は、こんな、女子でさえも羨む彼女と仲が良かっただなんて、今の私には遠い夢物語だ。 「清海ー、起きてるでしょ? 朝ご飯出来たわよー」 「? …はーい!」 下から響く女声、誰だろう。と思えば、それは清海の母だと知る。返事をしたが、それが私の声じゃなく、清海の声なので、やっぱり違和感だった。 (そうか…清海の両親や弟は、本当の清海はもういないって知らないんだ……) 私が清海なのだから、私が何か清海らしくない事をしない限り、誰も疑いはしない。 今更になって、転生、生まれ変わる、というものの凄さ…よりも、恐ろしさを知った、気がする。
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