30人が本棚に入れています
本棚に追加
私の視界を横切るのは、小柄な彼女の明るく染められた人工的な赤だった。
彼女はこの上下関係の厳しい学校と言う世界で、一番下にもかかわらず髪を染め、スカートの裾を短くしていた。
上級生からの教育と言う名の折檻もあったようだ。そしてそれは、クラス内にも伝染した。
体育の授業。
元から運動が得意ではない私は、隅のほうでぼんやりと見ていた。
「ねぇ、その頭何とかならないわけ?」
棘のある女子の声が聞こえた。
自分のことかと思ったが、違ったようだ。私は父親に異国の血が混じっていたらしく、天然で赤茶色という髪の色をしている。日に当たるとそれが際立つため、私は太陽が嫌いだ。
「私の頭の前に、あんたたちの頭ん中どうにかしたら?」
ああ、彼女の声だ。
そうか、言われていたのは彼女だったのか。
視線を向ければ、三人ほどの女子に囲まれた彼女がいた。綺麗に二つに結われた髪は、左右でひらひらと揺れている。
かわいい、かも。
「……っ、黙れ!」
小馬鹿にしたような彼女の答えが気に入らなかったのか、リーダーらしき少女が怒鳴る。
「そういう態度が、気に入らないのよ!!」
一人の少女が隠し持っていたはさみを取り出し、彼女の揺れる髪に向かって突き出した。
「切ったら、少しはましになるんじゃない?」
ニヤニヤと笑うその表情は、とても汚いと思う。それに引き換え彼女は、無表情に凛と立っている。
いきなり、彼女が行動に出た。はさみを奪い取り、自分の髪を切り落とした。
ジョキン、ジョキン。
たった二回の音で、彼女の髪はとても短くなってしまった。ああ、もったいない。
「これで満足?」
彼女は悠然と笑って、はさみの柄を少女に向ける。
縛っていた場所から切ったその髪は、左右が非対称でなんともいえない髪型だった。それでも様になっているのは、きっと彼女だからだろう。
羞恥と屈辱に顔を赤くした三人の少女達は、逃げるように彼女から離れていった。
「ちょっとー、はさみ持って行きなさいよー」
いまだ彼女の手にあるはさみ。確かにそんな物を置いていかれても困る。でも、まぁ。
「いいんじゃない?」
「は?」
「そのはさみ持って、保健室おいで。髪形、整えなきゃならないでしょ?」
授業が終わった。私は彼女にそれだけ言って、体育館を後にした。
来るかどうかは、彼女次第。
.
最初のコメントを投稿しよう!