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カカオ・フィズはカクテル名にも使われているので分かるように、カカオを使ったカクテルだ。 クレム・ド・カカオという、チョコレートのような甘みと苦味のあるリキュールを使った、甘口で度数の弱いものだ。 女性によく好まれるカクテルとして、男性が頼んでいるのを何度も見ている。 まぁ、甘口なんてそんなに飲まない私には関係ないけど。 ウォーター・デッキもマルガリータもやや辛口で、度数も二十五度前後。 まぁ、一杯だけ飲む予定だから、ちょっと度数の強いものを選ぶのが私の基本だ。そして絶対に辛口。甘口の酒なんて、飲んでると気持ち悪くなるんだよね。 「よく来るの?」 「まぁね」 彼女の問いに答えながら、私は考える。 なぜ、彼女はここで私に声をかけてきたのか。気づいていても、そのままやり過ごすこともできたはずだ。 それなのになぜ、あえて。 あえて声をかけてきたのか。 沈黙が始まり、曲が流れる。互いに声をかけることもなく、カクテルを口に運ぶ。先に沈黙を破ったのは私だった。 「明日早いから、先に帰るね」 私はマルガリータを飲み干して席を立つ。 これ以上、会話もない中で彼女といたくなかった。 逃げるように私は店を出ようとした。 「ま、待って!」 どこか切羽詰ったような彼女の声に、私は驚いて振り向く。そこには、苦しそうな、でも、何か覚悟を決めたような強い眼をした彼女が私を見据えていた。 「また、連絡とか、取り合わない……?」 私は驚いた。だって、連絡を絶ってきたのは彼女だったから。その彼女が、また私と関わろうとしている。 そのための言葉を吐くのに、どれだけの勇気がいるのだろうか。どれだけの覚悟が必要なのだろうか。 私はきっと、否定されるのが怖くて何も言えないだろう。 なぜ、どうして。 その言葉だけが頭の中に回る。 彼女の意図はいったいどこに? なぜ、また連絡を取り合うの? ああ、ダメだ。 思考がまとまらない。 私は彼女から視線を外しドアを見る。 「ちょっと、酔ったみたい。外に出ない?」 彼女は私の申し出に、素直に従った。 それから私たちは近くの小さな公園へ行った。 昼間は子連れの親子で賑やかであろうここも、日が沈んで月が顔を覗かせる時間となると静かなものだ。 「二週間くらい前かな。ちょうどあの店の前を通ったら、入るのを見たんだ」 彼女はゆっくりと話し始めた。 .
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