21人が本棚に入れています
本棚に追加
§《ナイト・ウォーカー》§
『見つかったか?』
インカムを通じて送られた上司の問いは、事務的なものでありながら、否やを許さぬ、鉄の声音であった。
「いいえ、まだであります。」
鉄の表情と声色で、その男…『ハウンド』というコードネームを持つ男は答える。典型的なアングロサクソンを具現した相貌プラス、身長2メートルを優に越すであろう体躯は図らずも人目を引くに違いあるまい……、昼日中ならば。
『急ぎたまえ、いかに深夜とはいえ、一般人が、徘徊していないとも限らん、《彼ら》を接触させる訳にはいかんのだ。』
「了解しております。我々も迅速に目標を『捕獲』致します、暫しのご猶予を、」
インカムに対応しながら、部下から差し出された付近の地図に目を通す『ハウンド』。黒一色の背広の上下を羽織っているが、迷彩服こそが彼に相応しい出で立ちではないだろうか?
「期待しているぞ、『ハウンド』よ。」
意味ありげにコードネームを告げた上司に対し
「我が『名』にかけて……」
不敵な笑いで答えた『ハウンド』は、9名からなる部下を見回すと
「ファーストは俺と来い。セカンドからナインスは二人一組であたれ。『目標』は可能な限り、無傷で狩るように……そして」
一旦、ここで言葉を切った『ハウンド』は、笑みを深くすると
「『目標』の目撃者は、消せ。我等はユニオンの為の正義の刃。全ての栄光はステイツの為に…」
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
宙天には月が輝いていた。お伽噺で魔女が腰をかけて戯れていそうな…そんな月だった。
『なぁに、良太郎。こんな時間に…』
携帯電話の向こうで、ハスキーな声が眠たげに『僕』に答える。
「やぁ、こんばんは。真弓ちゃん。久しぶりに出てこれたんでね。どうかな、これから夜空を見ながらのデートでも楽しまない?」
目下、『僕』の中では、NO.2の女の子だ。小細工に走るよりは、と考え、直球勝負をしかける。
「またぁ、そんな事言って。私以外の女の子にもそんな言葉かけてる癖にぃ」
半ば甘え、半ば拗ねたような口調で真弓ちゃんが答える。
うーん、実はその通りなんだけど。当然、そうは答える訳にもいかず…
「そんな訳ないじゃない。『僕』がこんな風に誘うのは真弓ちゃんだけだよ。」
耳元で囁く声を意識しながら、告げる『僕』
最初のコメントを投稿しよう!