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「本当に?嬉しいな…でも…、」
「でも…?」
一気に蕩けたような声に付随した疑問符に、おうむ返しで『僕』は先を促した。
「良太郎が『愛してる』って言ってくれたら、付き合って、あ・げ・る❤」
少しおどけた口調で真弓ちゃんが告げた。当然、『僕』の答えは……
「何を今更だけど、真弓ちゃんがそう言うなら、愛……」
してる、と言いかけた『僕』は突然、良太郎の体から弾き出され
「愛してる訳ねぇだろが、とっとと便所行って寝ろ❗❗」
とって代わるように良太郎の体に入った『先輩』が、一方的にそう告げた後、ブチリという音をたてて通話を切る。
「ちょっと、酷いじゃないか、先輩。今の娘(こ)、『僕』の中でNO2だったんだよ。あんな事言ったら、もう電話かけても出てもらえないじゃないか!」
さすがに温厚な『僕』でも許せない事もある。憤慨と非難を込めて、そう告げたのだが…
「はぁ?酷いのは、てめえの方だろうが、何を勝手に良太郎の体、使ってやがる。…まったく、油断も隙もあったもんじゃ…」
ぶつくさとお説教を始める『先輩』…参ったな。事情を知らない人が見たら、一人芝居をする《変な人》に見えるじゃないか…『僕』は再び、意識を集中し
「…よっと、『先輩』、とにかく、今夜は『僕』のプライベートだから、大目に見てよ。」
良太郎の体に入ると、『先輩』の意識を閉め出し、占有権をとり戻した。さっきは真弓ちゃんとの会話に意識を集中してたせいで不覚を取ったけど今度はそう簡単にいかないよ、せ・ん・ぱ・い。
「何がプライベートだ、俺だって暴れてスカッとしてぇのに……ん!?」
声を荒げて噛みつきかけた『先輩』がふと、言葉を止め、道路沿いに生い茂る林を見やる。
「『先輩』も聞こえた?」
そう尋ねた『僕』は風を巻きつつ、疾走を開始する。
「あぁ、ありゃあサイレンサーとか言うのをつけた銃声だな。それと、女の悲鳴…」
砂状に実体化し『僕』に並走しつつ、『先輩』が嬉しそうに呟く。
イマジンである『僕』たちの聴力は、いわゆる普通の人間のそれを大きく上回っている。ま、この能力のお陰でトラブルに巻き込まれるんだけどね。
「おい、カメ。ベルトだけは巻いておけよ。良太郎の体、傷つける訳にはいかないんだからな。」
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