69人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
雨が、降っていた。
何もかもが動きを止めて静まり返る中、雨だけが狂ったように降り続く。
「こんなことになるくらいなら……」
彼女の声が聞こえる。雨の音がうるさいはずなのに、彼女の声は不思議とよく聞こえた。
「こんな風になるくらいなら……」
彼女の言わんとしていることは分かる。だからこそ、言って欲しくなかった。
だって、悲しすぎるから。悲しすぎる言葉だから。
でも、彼女を止めることはできない。彼女の言葉を知っているからこそ、できなかった。
多分、彼女は泣いている。涙は流れていなくても、彼女の心が泣いていた。
悲しくて、悲しくてたまらなくて泣いていた。そのくせ彼女は絶対に泣かないのだ。
彼女は一度だって泣かなかった。
「最初から生まれて来なければよかったのに」
それは始まりの否定。
それは彼女の悲しみそのもの。
残酷で、悲しい言葉。
最初のコメントを投稿しよう!