雨の日の悲しい歌

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 雨が、降っていた。  何もかもが動きを止めて静まり返る中、雨だけが狂ったように降り続く。 「こんなことになるくらいなら……」  彼女の声が聞こえる。雨の音がうるさいはずなのに、彼女の声は不思議とよく聞こえた。 「こんな風になるくらいなら……」  彼女の言わんとしていることは分かる。だからこそ、言って欲しくなかった。  だって、悲しすぎるから。悲しすぎる言葉だから。  でも、彼女を止めることはできない。彼女の言葉を知っているからこそ、できなかった。  多分、彼女は泣いている。涙は流れていなくても、彼女の心が泣いていた。  悲しくて、悲しくてたまらなくて泣いていた。そのくせ彼女は絶対に泣かないのだ。  彼女は一度だって泣かなかった。 「最初から生まれて来なければよかったのに」  それは始まりの否定。  それは彼女の悲しみそのもの。  残酷で、悲しい言葉。
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