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「ちぐさ……!」
もし泣いたのなら、楽になれたのかもしれない。でも、私には泣く資格なんてないんだ。
「ちぐさチグサ千種千種、千種……」
何度も何度も、自分のものだった名前を呼ぶ。それだけで、楽になれた気がした。
千種は、カミサマは、いつも優しく微笑んでいた。私が頼る度、少しずつカミサマは輪郭をはっきりとさせていった。
それとは逆に、私の存在感は薄れていった。家の中にいても、気づかれないことが増えていった。こっそり抜け出すには好都合だったけど。
それは代償だったのかもしれない。悲しみを預ける代わりに、私は私という存在を失っていたのだろう。
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