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あれは夏休みまであと二週間という頃だった。
(暑い…)
次の授業へと向かっていた陽平の頭は夏特有の蒸し暑さに軽くショートし、周りに注意を向けることが出来なくなっていた。
それがいけなかった。
廊下を何も考えず、ただふらふらと歩く。
次の教室へはこの角を曲がればあと少しという所まできた。
もうすぐだ。
教室に入れば冷房が効いている。
これで生き返れる。
陽平はそう自分に言い聞かせ、歩調を速めながら角を曲がった。
ドンッ
「うわっ!」
正確には、曲がろとした。
しかしよく確認もせずしかも急いでいたこともあり、誰かが反対側から同じように曲がってこようとしていることに気がつかなかった。
「すいません、大丈夫です、か…」
(あ。)
「ああ、なんともない。君も大丈夫か?」
(しまった、生徒会長だ)
陽平がぶつかったのはこの学校の生徒会長、藤堂雅人だった。
ここの生徒会は美形揃いで人気が高く、女子の間だけでなく男子からも尊敬されファンクラブなども存在する。
そんな生徒会と、しかもそのトップの会長と話をしているとこを誰かに見られでもしたら明日からの学校生活はどん底だ。
クラスから、いや生徒全員からどんな報復があるか分からない。
(確か去年、先輩の誰かが自分は会長の恋人だと言いふらして学校中から干されてたっけ。)
それだけ生徒会は崇拝される存在なのだ。
「…おい、人の話を聞いているのか?」
「えっ?…あっ、はい。」
「なら決まりだな。ついて来い。」
「はい…?うわ、ちょっと!」
どうやら陽平がこの状況をどうするか考えている間に会長は何かを話していたらしい。
適当に相づちをうつと、会長に手を取られそのままどこかに連れて行かれようとする。
「ちょっ…!どこ行くんですか!というか手っ…」
マズい。この状況は非常にマズい。
会長と一緒にいるだけでヤバいのに手なんか繋いでいるのを見られたら…!
「離して下さい!」
「駄目だ。そうと決まればらしく見せなくちゃいけないからな」
(…は?)
「らしく…?」
「ああ。」
そう返事をし、前を歩いていた会長が足を止め振り向いた。
「これからお前は俺の恋人になるんだからな。」
そう言って意地悪っぽく笑った会長に、夏の暑さ以上の頭痛を陽平は感じたのだった。
続く
2010.5.21
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