はじまりの追憶

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. 始業日翌日、高校生活二日目。 移動教室の最中、抱えていた学習道具の中から筆箱を落し。 拾い上げようとその場で屈もうとした瞬間。 “――ブツンッ!” 今まで何度となく聞いてきた、聞き覚えのある嫌な音が耳に届き。 スカートのひだがリノリウムの床に、ぱさり、と広がる。 ……彼女はまだ膝を着いてもいないのに。 “―――ッ!!?” 一瞬にして青ざめ、その直後全身真っ赤になった福子が、慌ててその場にしゃがみ込んだ直後。 周囲からどっ、と笑いが吹き出した。 “おい、見たかよ!今のッ。” “『おばけ大福』のなんか見れても嬉しくねぇー!!” “汚ねぇもん見せんなよ、『大福子』!” “っていうか、よくあの身体で制服入ったよな?” その場にいた同じ中学の男子がすかさず囃し立て、女子のあからさまな嘲笑が彼女に刺さる。 余りの羞恥といたたまれなさに、福子の視界はじわりと滲んだ。 彼女よりも肥満体型であったらしい、従姉妹の卒業生から譲り受けたこの制服。 元々噛み合わせの悪かったファスナーが、今朝上げようとしたら壊れてしまい、仕方なくボタンだけ留めてきたのだが…………。 《――だぁ~いじょうぶよ、一日ぐらい。ボタンはちゃんと掛かるんだし。》 ――暢気な母の声が耳に蘇る。 ……こんなことになるなら、どれだけ周囲におかしいと思われようが、夏服かジャージを着てくるべきだった。 彼女は今朝、母の言うままに家を出てきた自分を深く後悔していた。 とにかくその場から逃れようと、床に落ちたスカートを腰まで上げて押さえ。 立ち上がろうとする。 “―――ぁッ!?” だが運悪く、中途半端に押さえていたスカートの裾を踏んでしまい。 立ち上がろうとしたその勢いのまま、どたりと俯せに廊下の上に倒れ込む。 取り囲む観衆に、今度はぶざまに晒された彼女の下着を隠す術も無く。 周囲からまた沸き出す冷笑の渦から、その場から逃れることも出来ず―――。 (……もう…、やだ……っ。) ゆらゆらと歪む視界をぎゅっと閉ざし、福子は唇を噛み締めた。 “―――何をしてる。”
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