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――ピピピ、ピピピ。
枕元の目覚ましが鳴る音に、彼女は半ばぼんやりとした頭で身を起こす。
「……久しぶりに見たなぁ……。」
目元を擦り、確かめた窓の外は明るい。
朝が来ている。
「……おじいちゃんの夢。」
彼女の祖父、幸山 福助(こうやま ふくすけ)は彼女が中学三年に上がる時に脳梗塞で亡くなった。
優しくて温かくて明るくて、彼女は祖父が大好きだった。
学校の帰りや休日に祖父の餅屋を訪れては、店先で祖父の代わりにやってきたお客様にいらっしゃいませ、と声を掛けたり、祖父の自慢の大福をご馳走になったりした。
「懐かしいなぁ…、今日は良い事ありそう。」
夢とは言え、久方振りに見た祖父の笑顔に癒されて彼女の表情は明るい。
鼻歌混じりにベッドから降りた彼女は眠気覚ましにぐぃ、と一伸び。
――ブツンッ。
コロロ………っ。
「……………。」
――直後、彼女の胸元で微かに不吉な音。
「…………………。」
ちら、と嫌な予感と共にパジャマを見遣れば案の定。
上から三番目のボタンが消えている。
「…………はぁ。」
深い溜め息一つ。
室内をさ迷った視線は目的の物を見つけ、彼女は部屋の隅へと歩み、寂しく転がるボタンを摘み上げる。
「…………はぁ。」
(――“また”やっちゃった。)
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