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――コンコンッ。
「…っ痛。」
『ふくちゃん、起きてるの?早く降りてらっしゃい、朝ご飯冷めちゃうわよ~?』
「はーい…。」
ぷくりと指先に小さく膨らんだ赤い一粒。
口に含めば、微かに塩辛い味が舌を突く。
人間、焦れば焦るほどスムーズには事が進まない。
時計を見れば既に始業十五分前。
彼女の家からだと、そろそろ出なければ遅刻も有り得る。
それだけは避けたい。
(……仕方無い、帰ってからやろう。)
中途半端な経過のそれを裁縫箱と一緒に机の上に纏め、無念のままに部屋を後にする途中。
扉横の姿見に映る自分の姿に、彼女は立ち止まる。
「…………。」
市内の公立高校の制服。
女子に人気のセーラー服は一番大きいサイズにも関わらず、きつそうだ。
今にもはち切れそうに見える。
脂肪だらけの顔、腕、胴、脚。
まるで大福のようなまんまるの肥満体。
それにそばかす。
せめてもう、ほんの少し。
ほんの少し痩せていたら………。
「……これじゃ言われても、仕方無いよね……。」
(……ほんとに大福みたいだもん。)
『ふくちゃ~ん?』
「今行くー。」
悲しい気持ちでとぼとぼと鏡の前から離れ、自室を後にする。
「おはよう、朝ご飯食べれる?」
「ん…、やめとく。時間無いし……。」
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