115人が本棚に入れています
本棚に追加
桜並木に見守られ、丘の上へと続く緩やかな坂道。
それを上りきった先に、彼女の通う高校はある。
始業時間近くともなると、彼女以外に道を歩く学生の姿は流石に見えない。
桃色の絨毯に感激する間も無く息を荒げ、懸命に坂道を駆け登り、登りきると。
煉瓦造りの門を抜けて、数メートル先にある正面玄関口へと飛び込む。
「はっ…、はひ…っ。」
昇降口の時計をちらり、時刻を確認。
(あと二分…!間に合うかも……ッ。)
既にがくがくの膝を叱咤し、ふらめきながら階段を上がる。
彼女の教室は、『2-B』だ。
既に生徒達が集まり、賑やかな筈の教室前は、何故か静まり返っている。
「………っ。」
荒い息を整え、意を決して引いた引き戸の向こう。
(………あぁ、やっぱり……。)
「……幸山、もっと余裕を持って登校して来い。――早く席に着け。」
教卓の前に立つ長身の影が口を開き、彼女は丸い肩をびくりと揺らしてすぼめ、小さくなる。
最初のコメントを投稿しよう!