はじまりの追憶

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桜並木に見守られ、丘の上へと続く緩やかな坂道。 それを上りきった先に、彼女の通う高校はある。 始業時間近くともなると、彼女以外に道を歩く学生の姿は流石に見えない。 桃色の絨毯に感激する間も無く息を荒げ、懸命に坂道を駆け登り、登りきると。 煉瓦造りの門を抜けて、数メートル先にある正面玄関口へと飛び込む。 「はっ…、はひ…っ。」 昇降口の時計をちらり、時刻を確認。 (あと二分…!間に合うかも……ッ。) 既にがくがくの膝を叱咤し、ふらめきながら階段を上がる。 彼女の教室は、『2-B』だ。 既に生徒達が集まり、賑やかな筈の教室前は、何故か静まり返っている。 「………っ。」 荒い息を整え、意を決して引いた引き戸の向こう。 (………あぁ、やっぱり……。) 「……幸山、もっと余裕を持って登校して来い。――早く席に着け。」 教卓の前に立つ長身の影が口を開き、彼女は丸い肩をびくりと揺らしてすぼめ、小さくなる。
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