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「ツイてないねぇ、ふくちゃん。よりによって、高藤先生が担任の初日に遅刻しかけちゃうなんて。」
「うん……。」
HR終了後、担任の姿が教室の外に消えたと同時。
数少ない彼女の友人の一人、小野寺 柚子(おのでら ゆずこ)が声をかけてくる。
「前の担任のイガッチ先生はともかく、高藤先生って厳しそうだもん。にこりともしないし。めちゃくちゃイケメンなのに、勿体無いよねぇ。」
くるくると髪の毛の先を弄ぶ柚子の言葉に、彼女は教室の出入口を見詰めて溜め息をつく。
「ん?どしたの?先生に注意されたの、気にしてる?」
「ううん、そうじゃなくて……。」
「あぁ~、ふくちゃん、高藤先生苦手でしょ?見てればわかるよ。いっつもびくびくしてるもん。そりゃあ、嫌いな相手とこれから毎日顔合わせるわ、その人が担任だわで、気は重くなるよね~…。」
「ちっ、ちが……っ、嫌いな訳じゃ……ッ。」
幸山 福子(こうやま ふくこ)、高校二年生。
父方の祖父・福助の名から一字貰ったと母が語る『福子』という名は。
彼女にとって大切な祖父の形見の一つだが、同時にコンプレックスの一つでもある。
遺伝の肥満体質も合わさり、そのまんまるの体型から『おばけ大福』や『大福子』と。
同年代の男子や女子から、揶揄や中傷の的にされたからだ。
彼女の内気な性格も災いし、中学では随分虐められた。
高校生になってからは以前に比べるとそこまであからさまなものはなくなったが、相変わらず陰で彼女を笑う者はいる。
「嫌いとかじゃ…っ、違……ッ。」
「まぁまぁ。本人がここにいる訳じゃなし、隠すこと無いって。」
「だから…。」
(――違うのに。)
「ほんとに違うの……。」
(私に勇気が無くて、近付けなくて。)
(勝手に怖がって、目が合わせられない………。)
「……先生が嫌いで、ああなる訳じゃないの。ちょっと緊張しちゃう……、っていうか。私が勝手になっちゃって。高藤先生って確かに厳しいけど……、優しい先生だし………。」
「はぁあ?優しい!?」
明らかに信じていない様子の柚子。
彼女の盛大な顰め面を視界に収めながら、福子は高校一年の春を思い出す。
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