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「あらあら。菊乃ったら、もうマリッジブルーかしら?」
「菊乃は昔っからパパっ子だったからなぁ。今頃、パパと離れるのを泣いて惜しんでるんだろう」
感傷に浸って、鼻を啜る父がそんな見当違いな事を言っているとは露知らず、私はベッドの隅で体を丸めて震えていた。
嫌だ、嫌だ、嫌だっ!
これは何かの間違いだ。
夢だ。
そう、悪い夢。
「…菊乃さん」
「ひぃっ!?」
悪い夢ならば覚めてくれと、手の甲を抓ろうとした時。
背後から、先程とは打って変わって冷ややかな声が私を呼んだ。
冷ややかなんて、まだ生温い。
刺すような冷気そのものとも言えるそれに、私は悲鳴を上げ、凍りついた。
「…ひぃっ!?って、あなたね…」
呆れ返った彼は深い溜め息を漏らした。
ぎしっと床が軋んで、彼が近付いてくる気配を背中に感じる。
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