悪夢の始まり

6/35
前へ
/798ページ
次へ
「あ…の…」 「黙って」 長く細い、けれどもしっかりと節くれだった人差し指が唇に触れる。 視線をそれに奪われていると、額に生暖かい感触を覚えて、慌てて勢いよく顔を上げた。 次の瞬間、今度は柔らかい何かが唇を塞いで、私の思考を奪っていく。 頭の中はもう、考えるのを拒むように真っ白だ。 “何か”なんて、正体を探らずとも分かる。 だけど、認めたくない。 ただただ呆然と目を見張る私に、遠ざかっていく彼の顔は口の端を引き上げ、不敵に笑っていた。 「キスする時は目を閉じるものです」 彼は少し乱暴にその大きな手のひらで私の瞼を塞いで言った。  
/798ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54495人が本棚に入れています
本棚に追加