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「あ…の…」
「黙って」
長く細い、けれどもしっかりと節くれだった人差し指が唇に触れる。
視線をそれに奪われていると、額に生暖かい感触を覚えて、慌てて勢いよく顔を上げた。
次の瞬間、今度は柔らかい何かが唇を塞いで、私の思考を奪っていく。
頭の中はもう、考えるのを拒むように真っ白だ。
“何か”なんて、正体を探らずとも分かる。
だけど、認めたくない。
ただただ呆然と目を見張る私に、遠ざかっていく彼の顔は口の端を引き上げ、不敵に笑っていた。
「キスする時は目を閉じるものです」
彼は少し乱暴にその大きな手のひらで私の瞼を塞いで言った。
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