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…“キス”。
さっきの行為が改めて声にされて、気を失いそうになる。
この、女子社員をはじめ後輩、上司、取引先とあらゆる人を泣かせてきた“冷酷メガネ”と私が…?
私は無言で立ち上がると、ショックのあまりふらふらと覚束ない足取りでドアへと向かった。
「もう行ってしまうんですか?せっかく2人きりになれたのに」
くすりと渇いた笑いが聞こえる。
心にも無いことを言う彼が腹立たしくて、悔しくて。
私はくるりと身を翻し、ベッドに腰を下ろす彼を睨み付けた。
「消毒っ!してくるんですっ!!」
我ながら、子供じみていると思う。
消毒だなんて。
彼は鼻先で馬鹿にしたように小さく笑うと、ゆっくりと立ち上がり、こちらへ近付いてくる。
どんな嫌味が飛んでくるのかと、強く目を瞑って身を縮めた。
「菊乃さん…?」
感情の読み取れない声に名前を呼ばれ、おずおずと視線を泳がせながら上へ持っていく。
閉じ込めるようにドアに両手をついた彼は、完全に私が逃げるのを阻んでいた。
青ざめる私の耳元に、彼は顔を寄せて囁く。
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