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「消毒しても無駄だと思いますよ?これから、いっぱいするんですから。なんたって、夫婦、ですから」
わざとらしく“夫婦”を強調した事よりも、その前の言葉に耳を疑った。
いっぱいする?
この男と?
…何を?
目を剥いて絶句する私を、滑稽だと言わんばかりに冷たい微笑を残して、彼は部屋を後にした。
床にへたり込んで、どうか夢であって欲しいと祈りながら頬をつねる。
当たり前に痛い頬。
生々しく残る唇の感触。
リビングから聞こえる両親と彼の笑い声。
全てが、紛れもない事実だと、逃れようのない現実だと、私に訴えかける。
「い……いやぁぁぁーーーっっっ!!」
現実から目を逸らしたくなるような、悪夢の幕開け。
私があの、つかみ所がない男の“妻”になるなんて。
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