お花係

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一時間はたっただろうか。 雨足は未だに衰えていなかった。 『このまま雨が止まなければいいのに…』 僕は心の中で悲しく囁いた。 そうすればこの気持ちが何なのか分かる気がしたが。 『一緒に帰ってくれてありがとう。』 優子は微笑みを浮かべながら優しい瞳で僕を見つめた。 その瞳はとても黒かった、澄んだ黒。 『僕も一人だったら心細かったよ。』 僕はトンネルの外を見つめる優子の横顔を見ていた、どこか悲しみを隠しているような。 『昔、宇宙に行ったライカ犬は寂しかっただろうな…』 優子はやっと聞き取れるような声で呟いた独り言だったのかもしれない。 『スプートニクだっけ』 優子は驚いた顔をして僕を見た。 『えっ知ってるの?なんで』 僕は家にある図鑑にスプートニクが載っていたのを思い出す。 まだ人類が宇宙へ行く前、ライカ犬は地球をぐるぐる回ったんだ。 そしてクドリャフカは地球に生きて帰ってくることはなかった、 その事を優子に話した。 『そのことを思うと胸が苦しくなるの。』優子は胸を押さえた。本当に苦しくなったのかと心配した。 『どんな気持ちだったんだろうね…ロケットに乗せられて、でも僕は一人じゃ嫌だけど大切な人と一緒だったら宇宙の果てまで飛んでいっても良いかも。』 優子はそれを聞いてくすっと笑った。『なんだかしっかり者なんだね、いつも何を考えてるかわからなくって頼りなかったけど話してみたらびっくり。』 『全然しっかりしてないよ…進路も決まってなくて、ただ今日一日を生きてるだけ余裕ないんだ。優子は将来の夢とかあるの?』 優子は暫く考えながら弱まってきた雨を見ていた。 『私、花が好きなの。だからお花屋さんでもやりたいかなって。なんだか子供っぽいよね…』 頬が微かに染まった。 『いつも優子が教室の花瓶に花をさしてるの知ってたよ。』 だれも気付かないような場所にその花瓶はあったのだ。 でも埃や塵はなかった、毎日新しい水が入っているのか濁ってはいなかったし季節に合わせて花がいけてあった。 僕はそれに気付いていた、他のクラスメートは微塵も気には留めてはいなかったけど。 『嬉しい…誰も気付いてないんじゃないかってずっと心配だったの。』 優子はとても嬉しそうだった。ずっと送り続けていた信号が相手に届いたかのように。
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