プロローグ

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 夕日が眩しい。  今日も学校での一日を終え、放課後は友人たちとだらだらと雑談していた。これが俺の身についた習慣の一つである。 「『旅人の案内人』――カッコイイ名だろ?」  キメ顔で問いかける友人には悪いが、そんなあだ名は中学生で卒業だと思う。そんなあだ名を所構わず言っていると、「中二病、乙」と言われるに違いない。  高校生になった俺たちにとって、カッコイイあだ名なんて必要ない。必要なのは、ちゃんと名前を呼んでもらうことだけだ。 「なあ、どうだ?『旅人の案内人』って」 「さあ?」  席を立ち、俺は教室の出入口に向かう。しかし、もう一人の友人が俺の行く道を阻む。 「私はいいと思う。私が道に迷っていたとき、あなたは私を案内してくれた。だから、『旅人の案内人』」  確かにその通りだ。ひとり孤独に生きようとしていたのを見ていられないのもあったが、転校生の世話役はどうにもこうにも疲れるだけだ。  彼女は俺の苦労も知っている。知っているから、俺が報われるようにと努力している。  彼女はそんなことをしなくてもいいのに、だ。 「……勝手にしろ」  背中越しに伝わる友人たちの歓喜の声。目の前にいる彼女も嬉しそうに微笑んだ。  いつも笑わないくせに……卑怯だ、と心の中で呟いて、彼女の隣を通って教室から出ていく。  酷く憂鬱な気分になる。明日から俺のニックネームは『旅人の案内人』になるそうだ。……だめだ、恥ずかしくて仕方がない。  今さら否定する気にもなれないのし、具体的な策も思いつかないので、そのまま俺は帰路に就いた。  次の日。 「おっ、『旅人の案内人』が来たぞ!」 「よっ! 『旅人の案内人』!」  あまり話したこともないクラスメートから話かられ、少し戸惑いながらも返事をするが、彼らの言葉に少し気になることがあった。 「……まさか、もう噂を広めたのか!?」  その噂を流したであろう人物たちに視線を向けると、一斉に隠れるように笑い出した。  俺は『旅人の案内人』と友人たちだけでなく、クラスメートからも言われるようになってしまった。  自分で言うのもなんだが、本当にバカなことをしたと思う。  高校一年生の、ある日の出来事であった。
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