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「あ、あの、さっきはありがとう!!」
俺が力なくうなだれていると、後ろから誰かが声をかけてきた。
振り返ると、さっきのいじめられっ子が目を輝かせながら俺に近づいてきた。
「君が止めに来てくれなかったら僕は多分このくらいじゃすまなかったよ……本当にありがとう!
もし良かったら名前教えてくれないかな?」
俺は突然の事でよく頭が回っていなかった。
止めた?そうだよ、俺はケンカを止めに来たんでケンカはしてない。
そうだよ!だいたいまだ殴ってもないし!俺ケンカしてないじゃん!
「あ、あぁ!礼なんかいいって!気をつけてな!それじゃ!」
ケンカはしてないものの、居心地が悪いので足早にいじめられっ子の元を去る。
天が後ろから小走りで付いてくると、俺の顔を下からのぞきながら話しかけて来た。
「真士くん、ケンカ止めてたの?」
やはりそのワードにドキッとはするものの、それを出来るだけ表に出さないように返答する。
「そ、そうだぜ!俺がケンカなんかするわけないだろ!
ま、まぁ止めたのはケンカじゃなくていじめだけどさ!」
「ふ~ん、ケンカしてたんじゃないんだ」
「そうだよ!ケンカ何かするかよ!痛いのに!」
「ふ~ん……」
それから天はその事について触れようとはしてこなかった。
まぁ俺がケンカしてたんじゃないって分かって安心したのかもしれない。
とりあえず、この場は何とかごまかせて良かった………
そう俺は思ってしまったのだ。
天の優しさに気付かず、そしてこの時天がどう思ったかも分からなかった。
分かるはずもない。自分の事で頭がいっぱいだったんだ。
だから俺のこの発言が、天を傷つけるなんて俺は思ってもみなかった。
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