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 夜のルスラン軍陣営。会議用のテントの中、レオニールは周囲の不安の声を退けていた。 「退却はしない!陛下からアザルトを食い止めろと命を下されたのだ、なんとしてもここは守り切る!」  珍しく声を荒げる彼に側近が云う。 「しかしレオニール様、今は本城が攻められています!ここを捨ててでもそちらに向かわないと、陛下が」  男の言葉は将軍が拳で卓を叩いたことで遮られた。 「お前は陛下を信じていないのか?」 「!そ、それは勿論」 「信じているならここを抑えることだけ考えろ。アザルトとネクロス、両国から挟み撃ちにされることだけは避けなければならん。……出撃の準備をしておけ。明日はまた出る」  この男までがこんなに不安なのだから、他の下級兵は更に酷いだろう、とうんざりしながら彼は外に出る。案の定、そこには強張った面差しの兵が列をなしていた。それを一喝して散らし、彼は自分のテントに戻った。  テントといっても、指揮官であるからそこらの下っ端とは造りが違う。防具を外してから、彼はきちんと整えられた即席ベッドの上に腰かけた。  ……自国が、王が危機に瀕しているというのに、今の自分にできることは迫り来る外敵を止めることだけだ。王の傍で彼を補佐することも、守ることも叶わない。それが腹立たしい。そう思っていると、テントの外からふいに声をかけられた。 「――レオニール様?あの、アシェットです。入ってもよろしいですか?」  レオニールは形のよい眉をひそめた。それは間違いなく自分の配下の声だったが、彼女は確か昨日の戦いで負傷していたはずだ。 「アシェット?こんな時間にどうした。入れ」 「……失礼します」  小さな声をかけて彼女はそっとテントの入り口から顔を出した。 「いや、頭だけだと不気味だ。ちゃんと入れ」 「……はい」  頭に続いて視界に入ってきた腕は、やはり吊ってあった。 「もう起きていて大丈夫なのか」 「はい……折っただけですから」  だけという程度の怪我ではないが、レオニールが気になったのはそこではない。いつもハキハキしている彼女が、今日は口調が妙に歯切れが悪い。 「それで、用はなんだ?まさかお前まで負けるんじゃないかと云い出すわけじゃないだろうな」 「なっ」  アシェットは赤くなる。 「誰がそんなこと訊きますか!自分は最期まで陛下とレオニール様に従います!」
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