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にわかに残った感覚を確かめるのに時間を割いてしまったのは、他でもない、初めてのことだったからである。
仄かに香る花のかほり。遠ざかる陰。揺らぐ艶やかな黒髪。そして言う。
「お前にこれを預ける。だからその時まで守れ。」
彼女は確かに、こう僕の耳元で囁いた。
そのあと目を疑ってしまった。いや、目では見えなかった。僕が命令に対しての質疑を述べる前に起こった。でも飛び込んできたのにその衝撃はなくて、ただ、ふわりとした感覚が身体を支配した。そしてこつ然に。長くて短い、淡いひと時の余韻が今でも残る。
ツナは、その日初めてのキスを奪われた。
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